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■中国語学習について

恩師井上隆一先生(故人)の言葉を記しておきたい。
私がまだ学生時代の頃だ。ん十年も前のこと。
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「おい、中国人にあなたは中国語が本当にお上手ですねえ!、と言われて喜んでちゃ駄目だぞ。それは、外国人にしては上手いということだ。本当に出来る奴にはそんなことは言わない。出身はどこだと聞かれるようになって初めて本物なんだ」

外国語の習得にはゴールが無い。これで充分と満足したらそこで終了、もう伸びない。
言葉に対する貪欲さ、好奇心を一生持ち続けることが、上達への絶対条件だ。
以前某大学の中国語学科主任教授と話す機会があったが、その教授も私もほぼ同時代に中国語を専攻した。当時の中国は竹のカーテンで閉ざされた遠い国だった。教材も辞書も少なく、ひたすら雑音混じりの中国語短波放送を聞くような状態だった。で、現在の情報溢れる環境下にある中国語専攻の学生と比較すれば、実に羨ましいといったことを話題にしたが、その教授曰くは、いやいや我々の頃の学生の方がよく出来た、とのことだ。情報過多でターゲットを絞れないらしい。結局中途半端になるそうだ。

私には中国語のレベルで常に目標とする先輩がいる。この人は現在某大学教授で、中国語の発音に関しては、私の知る限り日本でも最高レベルだと思っている。数年前に上海で会った折に、私は親しい上海の友人を連れて会食し、散会後その友人に聞いてみた。
どう、すごいきれいな発音だろ?
意外だった。友人は「うん、確かにパーフェクトな発音だね、アナウンサーみたい。でも、外国人が話してるって感じ。」と評価した。
「あんたはあんなきれいな発音じゃないけど、話していて違和感が無い、どこかの地方出身者という感じ」と。
う~ん、お世辞半分としても、このときに冒頭の恩師の言葉がよみがえった。
「きれいな発音にこしたことはないけど、いくらきれいに発音しても単語力に限りがあれば、意思疎通ができないし、お互い話題がとぎれて進まないでしょ。要するにスムーズな会話ができなければ深く話もできないしね。」
成程、言葉を操るということは実に難しいものだ。言葉はフィールドワーク、人との交流で磨くもの。

発音に関しては、例えば韓国人の日本語学習者には共通する韓国語っぽいアクセントがあり、同様に日本人の中国語学習者には日本語っぽいアクセントがある。なかなかその状況から抜け出すことは難しい。
それを払拭するには多く聞き、イントネーションを真似る、真似る、真似る、ことしかないが、音感には人それぞれ優劣がある。

外国語学習で一番肝心なことは何かと聞かれれば、私は即「語彙力」と答える。豊富な語彙を自分のものにしない限り深い意思疎通ははかれない。私も年齢のゆえか日毎頭が鈍ってきたが、毎日語彙の摂取は続けている。既に習慣化してしまった。
日常使われる言葉には何の問題も無いのだが、成語や古典の引用をと思ったときに、あれ?何だったっけ?言葉を忘れていることがよくある。記憶力の減退は如何ともし難い。
若い頃はベッドでテープを聴きっぱなしで寝ていた。今ではネットの映像をつけっぱなしでベッドに入る。もう習慣化してしまった。
とにかく多く聞くこと、意識が薄れても耳にイントネーションだけは刻まれる。

最後に、言葉は言葉そのものでは成り立たない。その背景にあるあらゆることに好奇心を持つことだ。挨拶や買い物などの日常会話レベルなら、10数日間240時間寝る間も惜しみ集中すれば足りる。
しかし中国人に伍して、相手にこちらが外国人と思われないほどのレベルに達するには、一生終わりのない精進が必要だ。

戦時中、日本の特務機関の男が共産匪を探索中に、食堂で身元が発覚して殺されたという話を恩師から聞いたことがある。その日本人は相当レベルの中国語を話していたが、ターゲットの隣席で麺をずるずるとすすったことで正体がばれた。相手の会話の内容を漏らさず盗み聴きすることに集中し、麺をすするという日本人の習性がついつい出てしまって感ずかれてしまったのだそうだ。
このことでもわかるように、外国人と思われないほどのレベルに達するには、風俗習慣を含めあらゆる言葉の背景にあるものに興味を持ち、吸収していかなければならない。
だから一生かけてその深みに近づく努力を怠ってはならないということだ。


私は本来学究の道を目指していたが、在野にてフィールドワークを続けること40 年、ゴールの無いマラソンを今もしている・・・
by officemei | 2013-12-06 13:00 | ■中国語