■中国の社会格差に思う

e0094583_21422799.gif2006年4月14日 世界鑑測 中国・キタムラレポートより

中国の都市は欧州、農村はアフリカ
3月5日から始まった中国の第10期全国人民代表大会第4回会議は3月14日閉幕した。会議の中心議題は、2006年から2010年までの5年間の目標となる「第11次5ヵ年長期計画」であり、その最重点課題は都市と農村の格差拡大に歯止めをかけるための農村対策であった。




中国の国家統計局の発表によれば2005年の都市と農村の所得格差は全国平均で3.2倍となっているが、社会福祉などを考慮すると実質的な格差は更に大きく、5~6倍にまで広がっているという見方もある。中国の「繁栄する都市」と「疲弊する農村」の2分化を的確に表した言葉に、「都市は欧州、農村はアフリカ」というのがある。
これは、かつて中国に駐在したドイツの大使が中国の印象を率直に述べたものだが、中国の著名な経済学者である胡鞍鋼もこの比喩をたびたび引用している程で、中国の都市と農村の対比を見事に表現している。
前述の国家統計局のデータによれば、2005年末時点の中国の貧困人口は6432万人であり、その内訳は一人当たりの年間純収入が683元(約9600円)より低い「絶対貧困」に分類される人口が2365万人、683~944元の「低収入」に分類される人口が4067万人となっている。これらの数字は都市には貧困なしという前提で従来から農村を対象としたものであるが、2004年末に比べて前者は245万人、後者は910万人減少したとしてその成果を誇っている。しかしながら、果たしてこれらの数字は正しいのだろうか。
「失地農民」は4000万人を越えている?
「低収入」の上限である944元は約117ドルに相当するが、1日当たりで計算するとなんと32セント。国連は購買力平価で1日1ドルを絶対貧困線として規定しているが、どのように計算しても中国の貧困ラインは低すぎで、1日1ドルを前提とする中国の貧困人口は恐らく3億人程度に達するのではあるまいか。基本的に養老年金も医療保険もない中国の農民の生活は、表面上の年間純収入だけでは計れないものがあるし、中国農村の状況を垣間見ている個人的な経験からは統計数字そのものに対する疑念が拭いきれない。
国家統計局の月刊誌「国情国力」の2005年9月号に掲載された洪蘭の論文「中国人口問題の三大憂鬱」には「1986~2000年は全国の貧困人口は平均して毎年600~700万人減少したが、2001~2003年の3年間は減少速度が緩やかなものとなり、3年間の平均で毎年100万人にまで落ち込んだ。それだけでなく、2003年にはその反動として逆に絶対貧困人口が80万人も新たに増加した」との記述がある。
中国農業部の尹成傑副部長は2006年3月8日の農業問題に関する記者会見の席上で、開発に伴う低価格による農地の強制収用によって、毎年100万人以上の農民が耕地を失っていると表明した。このような「失地農民」と呼ばれる人々の総数には統計がなく、正確な数字は不明であるが、4000万人を超えていると言われてから久しい。
農民暴動は2005年だけで8万7千件発生、実態はその10倍か
土地を持たない農民が生きるにはどうするか?
答えは大・中都市への流入である。土地を持つ農民も老人や子供を故郷に残して大・中都市へ出稼ぎに行くが、土地を持たなければなお更のこと、疲弊した農村に居ても食べることすら困難で、大・中都市へ行かない限りどうしようもない。一方、大・中都市にも苦悩があり、企業の都合で自宅待機や失業の境遇となり貧困状況に陥る人々が大量に生み出されている。農村から大・中都市に流入しても土地すら持たない農民は、教育水準も低く、手元資金にも事欠き、まともな仕事にありつける筈がなく、自ずと貧困に分類される生活を送らざるを得なくなる。これらの人々が大・中都市を中心として新たな貧困人口を構成していることは想像に難くない。
中国共産党の中央財経指導グループの陳錫文副主任は2006年2月22日の農村政策に関する記者会見で、農村から出稼ぎなどで流出した流動人口は約2億人との推計値を示したが、工業化と都市化の過程にある中国では今後とも農村人口とその労働力が都市に向かう傾向は一層強まるものと思われる。この結果、生み出されるのは、働き手から取り残されてますます疲弊する農村と都市の底辺で最低限の生活を送る流入農民の群れである。
新たに策定された農業対策の目玉は「社会主義新農村」の建設による農民収入の増大であるが、大・中都市への出稼ぎブームに火が点った現在、農村の活性化は「糠に釘」的な効果しか生み出さない可能性も高い。失地農民を中心とする抗議活動である農民暴動は2005年だけで8万7千件発生したと発表されているが、この数字はその規模が100人未満のものを除いた数字であり、本当の発生件数はこの10倍にも及んでいる可能性がある。
これら暴動の原因のほとんどは地方官吏による補償金の中間搾取であると言われており、汚職官吏の排除が徹底しない限り、貧困発生の循環の輪が断ち切られることはないのではないだろうか。
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