■中国映画広める仕事で大活躍

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中国映画の字幕翻訳や監督・俳優のマスコミ取材の通訳など、日本公開の舞台裏で活躍している水野衛子さんは、中国映画専門の翻訳・通訳者です。その仕事の楽しさ、難しさ、そして通訳者になるためのアドバイスなどを聞きました。




e0094583_3271655.jpg偶然のきっかけで映画の世界へ
「きっかけは本当に偶然。こんな仕事ができるとは思っていませんでした」
1994年、都立高校の教員をしながら語学学校の通訳科で学んでいた水野さんは、「江ノ島女性映画祭」の中国映画シンポジウムに観客として参加していました。
途中で通訳が映画の内容をわからず立ち往生して幕が閉まるという事態になり、実行委員から声がかかって急きょシンポジウムの通訳をすることになりました。
これが関係者の目にとまり、翌年の「彩の国さいたま中国映画祭」をはじめ、通訳や字幕翻訳などの依頼を受けるようになったのでした。
水野さんの通訳は、その正確さだけでなく、ていねいでわかりやすい話し方が高く評価されています。
「教師時代、生徒たちにかんで含めるように話していた経験が生きているのかもしれません」
いま日本で公開される中国映画の多くに、水野さんの翻訳字幕が付けられています。
「数年前まで、中国映画には中国語から直接日本語へ翻訳する専門家がいなかったのですね。『さらば わが愛~覇王別姫』(陳(チェン)凱(カイ)歌(コー)監督)は英語版から、『太陽の少年』『鬼が来た!』(姜(チアン)文(ウェン)監督)などはフランス語版からというように、二重に翻訳されていました。最近になって、映画会社も『これではいけない』と考えるようになったのです」
中国映画ファンとしての喜び
大学時代、中国文学を専攻していた水野さんは、陳凱歌監督の「黄色い大地」を観て中国映画ファンに。このことが中国語への学習意欲をかきたてます。
東京都教育委員会の派遣で、山東大学で日本語を教えていた時は、幸運にも中国映画の大スター、姜文に会うことができました。
「当時は『太陽の少年』を撮り終えたばかりの頃。かっこ良くて、感激しました」
その数年後、今度は姜文と仕事をするという機会に恵まれることになったのです。
もっとも印象に残っているのは、陳凱歌監督の「始皇帝暗殺」の翻訳。3回も編集のやり直しが行われ、その度に字幕も作り直したため、大変な作業になりました。
「締め切りまで本当に時間がなくて、最後は毎日六本木の編集スタジオに通い、音入れをしている監督のそばで、できあがった台詞をその場で訳してメールで送るという作業でした。あの『黄色い大地』の監督との、濃厚で、充実した仕事でした」。
来日した映画監督や俳優たちと一緒に過ごす機会が多く、一人の中国映画ファンとして、映画人たちの生活ぶりや生の情報を聞くことができるのが嬉しいといいます。
「ある時、『老眼鏡を買いたい』という張芸謀監督と渋谷に行ったら、店員に夫婦と間違われたこともあって…」と笑います。
難しさは日本語と中国語の違い
通訳をする上で難しいと痛感していることは、やはり「言語の違い」。
「日本語にも中国語にも、それぞれ独特の表現方法があります。言いたいことの要点を、聞く側にわかりやすい表現で訳すこと。これが難しいです。ビジネス通訳と違って、映画や文芸活動などの場合、監督や俳優たちが何を言いたいのか、その『思想』をとらえて伝えないといけない。また、あいまいな表現の日本語を直截的な中国語に訳す場合は大変です。日本人が日本語で話しているのを聞いていても、『この人は何が言いたいんだろう?』と思う時があります。そういう場合は中身を推測して訳したりも…」と苦労もいっぱい。
「映画監督はいろんな映画をしっかり見ているので、過去や現在の作品の話題が突然出るときもあります。そこで、直接自分の仕事に関わらない作品でも、発表されれば観ておくようにしています。インタビュー取材の場合、その内容や効果は本当に通訳者しだいですから」
水野さんのこうした体験は、通訳者に対する要求の厳しさを実感させます。
2003年に公開された「ヘブン・アンド・アース」(何(ホー)平(ビン)監督)では中井貴一さんの通訳として、新彊ウイグル自治区のロケに同行するなど、水野さんは中国映画の撮影現場でも活躍しています。中国人との共同作業を成功させるポイントは、
「最初から距離を持ったり、『中国人はきちんとしないから…』などという先入観を持たずに、彼らと心をかよわせて、気軽な冗談を言えるような対等な友達になれば、仕事はうまくいく。日本人と中国人の違いを否定的に見るのではなくて、彼らのいいところを見るようにすれば、必ず仲良くなれますよ」と水野さんは語ります。
中国語通訳をやっていながら、中国人と性格が合わないという人もいるとか。
「知れば知るほど、中国と日本は違う。でも違うからこそ面白いんですね」とも。
まず文化・歴史の学習を
これから通訳者をめざす人へのアドバイスは、「大切なのは『何があっても訳す!』という姿勢。言葉が聞き取れなければ話した人に聞き返してでも訳す。何が起こるか分からない同時通訳の現場では、度胸と臨機応変が必要ですね。最初から通訳が上手な人はいませんし、言葉をどう訳すかは十人十色なので、恥ずかしいと思わないでどんどん場数をふんでいけば、自然と技術も身についてくると思います」
また、幅広い知識をたくさん身につけることも大切。
「中国文学の近現代の名作は全部読んでおくべきですね。極端な例ですが、謝晋監督が、魯迅を知らないという日本人通訳に腹を立て、交代を要求したという話もあります。また、当然ながら日本と中国の近現代史をちゃんと勉強しておかないと問題になります。中国語学習者でも、あの『平頂山事件』(1932年、中国東北部の撫順炭坑近くにある平頂山の住民約3000人が日本軍によって虐殺された事件)を知らない人はかなりいます。私は、日本が中国に何をしたかを知らないまま通訳をやるべきではないと思います」と言葉を強めました。
中国映画を広げるために欠かせない、さまざまな仕事をこなす水野さん。11月からの「第5回彩の国さいたま映画祭」参加作品の字幕翻訳をする予定で、秋から冬にかけて新作映画の日本公開も決まりつつあり、ますます多忙を極めそうです。

水野衛子さんプロフィール
慶應義塾大学文学部卒。中国映画の字幕翻訳、来日する監督・俳優の取材通訳も担当。主な翻訳作品に、「始皇帝暗殺」(98年)、「追憶の上海」(99年)、「あの子を探して」「初恋のきた道」「きれいなおかあさん」(00年)、「活きる」(01年)、「ミッシング・ガン」「北京ヴァイオリン」「草ぶきの学校」(02年)など。また、翻訳出版に『中華電影的中国語・さらば、我が愛~覇王別姫』(陳凱歌、キネマ旬報社)、『中華電影的北京語、中国・台湾映画で学ぶ北京語名作・名シ-ン・名セリフ』(趙怡華、キネマ旬報社)などがある。
(2005.9.7 日中友好新聞より)
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by officemei | 2006-06-16 03:29 | ■日本