■野外映画上映会
「二十四の瞳」とか「路傍の石」を見たような記憶が微かに残っている。
もちろん白黒で、夏の夜、蚊取り線香、映写機の音・・・すべてがモノトーン。
今の若者には想像もつかないだろうが、町内会や学校主催で野外映画上映会があると皆うきうきしていた。半世紀近く前のお話。
さて、文革末期の中国でもこれと同じような「野外映画上映会」を見に行ったことがある。
当時では大衆の唯一の娯楽であったかもしれない。
貧しく不自由な境遇にあって、野外映画の大きなスクリーンに映し出される夢の世界に浸ることは何にも勝る喜びだったろう。
多少ストーリーの設定に無理があるものの、テーマがしっかりしているので苦にはならない。映画をこよなく愛する家族の人生をノスタルジックに描いた秀作だ。
絶賛したいのは、主人公・毛小兵(子供の頃の名前)の小汚くて、いまどき見かけないほどの面構え。でも昔はこんなガキがいっぱいいた・・・
ストーリー;
毛大兵(マオ・ダービン)は北京でしがない水配達の仕事をしている。
彼は映画を観ることが唯一の楽しみ。映画の料金が4日分の給料に相当するほど少ない収入なのに、彼はせっせと映画館に通っている。
ある日、仕事帰りに映画を見に行く途中、道端に積まれたレンガに自転車ごと突っ込んでしまう。起き上がろうとすると、若い女が突然レンガで彼の頭を殴りつけた。
病院で目覚めた彼は頭に傷を負っていた。仕事もクビになり、壊れた自転車の弁償までしなければならない。
彼は自分を殴った若い女を拘留中の警察まで訪ねていき怒鳴りつけるが、彼女は耳が聴こえない。
逆に彼女は彼に自分のアパートの鍵と「金魚に餌をあげて」というメモを渡す。
やむを得ず向かった彼女の部屋で目にしたのは、壁一面を覆う映画ポスターやスチール写真、スターのピンナップ。
彼は彼女も自分と同じく映画が大好きなことを知る。
そしてふと見つけた日記を読み始めると・・・
物語は、文化大革命の嵐が中国全土に吹き荒れる1971年、中国西北部の炭鉱町から始まる。
チアン・シュエホアは地方公共放送の花形アナウンサーで、女優になることを夢見ていた。そんな輝くばかりの美しいときに彼女は危険な恋に落ち、身ごもる。しかし、恋人に捨てられ、女優への夢も諦められなかったシュエホアは遠くで秘密に子供を産み、里子に出すことを決める。
出発の夜、彼女は野外映画館で上映中に産気づき出産する。
子供は女の子で玲玲(リンリン)と名づけられた。
シュエホアは父親の名前を明かさず、そのために職を失った。
世間からの冷たい視線に耐えられず死を選ぼうとするが、そのとき見たアルバニア映画に勇気づけられ生きる希望を見出す。
(文革時代、中国内外の映画のほとんどが発禁処分となり、国内で上映が許可されたのは当時中国と友好関係のあった、ごく小数の国の作品に限られていた)
映画スターへの夢をきっぱり諦めたシュエホアは、母親としての喜びに目覚め、貧しいながらも落ち着いた暮らしを取り戻す。
リンリンは母親の映画への愛を受け継ぎ、母娘で映写技師のパンおじさんがやっている野外映画館を度々訪れる。
そんなある日、リンリンのクラスに毛小兵(マオ・シャオビン)という問題児が転校してきた。
ケンカしながらもやがてふたりは親友になり、シャオビンは虐待する父親から逃げるようにリンリンの家に身を寄せ家族のように暮らし始めるが、ほどなく祖父母の家に引き取られ離ればなれに。
別れ際シャオビンはリンリンに、どんな映画も見ることができる魔法の双眼鏡をプレゼントする。
そんな時、リンリンの母はパンおじさんと結婚することになったが、リンリンは素直に喜べなかった。
さらにふたりの間に生まれた異父弟ビンビンに母の愛情が向けられると、リンリンは弟に嫉妬し恨むようになる。
映画スターを夢見て受験した少年宮の試験に合格したリンリンとビンビンだが、二人分の学費を払う余裕がなく弟だけが入学することになり、リンリンはここでも我慢を強いられる。
テレビが台頭し、映画人気が落ちていく中、義父の野外映画館はとうとう閉館することになった。
最後の上映の日、悲劇が起こってしまった。リンリンと貯水塔のてっぺんから映画を見ていた弟が誤って転落死してしまったのだ。義父は怒りを抑えられずリンリンを殴り、彼女は永遠に聴覚を失うことになる。
リンリンの日記にダービンは大きなショックを受けた。
彼こそがリンリンの幼少期の親友シャオビンだったのだ。
彼は警察から今リンリンが精神療養所にいること、そして道で突然彼に殴りかかった理由を聞く。
彼が倒したレンガの下敷きとなり、彼女の大切な犬が死んでしまったのだ。
リンリンのアパートのバルコニーで、ダービンは自分が昔プレゼントした望遠鏡を見つける。
それはすぐ近くの家に向けて固定されていた。
そして望遠鏡を覗いた彼が見つけたのは、懐かしいふたりの人物だった…。
それはリンリンの母親と、パンおじさん・・・
少女の母はかつて映画スターを夢見た美しい女性。
娘は大好きな母と野外映画館に行くのが楽しみ。
父親はいなくても母と映画があったから、暮らしは貧しくても楽しかった。
でもそんな幸せも長くは続かなかった。
幼なじみの少年との別れ、母の再婚と新しい父・異父弟の存在、野外映画館の閉館、そして悲しい旅立ち・・・
母がいつも聞かせてくれた歌、幼なじみの少年と走った草原、屋根の上に登って見た野外映画館のスクリーン・・・
家族と別れた孤独な少女はその頃の記憶だけを胸に生きてきた・・・