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■上海版「金の卵」の給与は新卒の4倍

「ボイラー検査工の月給6000元、大卒初任給は1500元」。
今、中国でこんな現象が起きている。



急速な経済成長を背景に製造業や建設現場などで高度な技能を持つ労働者の需要が急増しているのだが、もともと「現場志向」の低い社会通念のあるところに育成システムの不備が加わって、技能労働者が深刻な供給不足になっているのだ。
急増する新卒大学生への求人は伸びず、日本でいう高専や工業高校卒は引く手あまた。高度経済成長期に現れる中国版「金の卵」現象と言えるかもしれない。
NC旋盤工、4倍の求人が殺到
一番不足が深刻な技能工はNC(数値制御)旋盤工だという。上海市政府の調査によると、市内だけで求人数は4000人、それに対して応募者は1000人にも満たない。月給は6000から8000元(1元は約14円)に達する。これは日系企業のホワイトカラーで言えば、経験10年のマネジャークラスに匹敵する。先日、日本を代表する人気AV機器メーカーS社の現法に事務系社員として十数年勤務している友人から電話があって、「給料が上がって6000元になったから今度何かおごるね」と喜んでいたので、6000元というのは立派な給料であることが分かる。
旋盤工以外にも、自動車組立工、機械設備や電気系統のメンテナンス工、ボイラー工、金型工、鍛造工といった技能職種に極端な不足現象が起きており、いずれも賃金が高騰している。
こうした事態が発生する背景には、人材需要の伸びと育成不足という両方の側面がある。
技能工育成がまったく追いつかない理由
需要の伸びの方は年率10%という高度成長の下、外資系を中心に製造業の進出と規模拡大が続いている。しかし中国は「世界の工場」と言われるように、企業内部の各機能のうち生産現場に近い比較的下流部分の仕事が集まってくる傾向が強い。そのためもともと大卒の仕事よりは現場の技能工の仕事の方が増えやすい体質を持っていると言っていい。
ところが一方の育成のほうは、追いつかないどころかむしろ減っている。これは中国経済発展の歴史と関係がある。
中国ではかつて生産手段はすべて国有で、改革開放初期は国有企業が工業生産の中心的役割を担ってきた。そのため技能工の養成機関や学校は大半が国有企業の付属で、自社の技能工を養成する内部機関だった。
しかし、国有企業は淘汰と整理が進み、その中でこの種の学校も閉鎖が相次いだ。新聞報道によると、上海市内のこうした技術系学校は1994年には330校あったが、2002年には43校にまで減ってしまった。東北地方の工業都市である瀋陽でも同様で、1996年の140校が2002年には20校に激減したという。
大学の新設ラッシュでさらに育成が滞る
追い打ちをかけるのが4年制大学の新設ラッシュと入学定員増である。中国政府は2000年頃から大学制度の大幅な改革に乗り出し、大学生の数は一気にそれまでの2~3倍になった。もともと中国社会は「文人優位」というか、ホワイトカラーに対する憧れが強い社会なので、大学の門戸が広がると大学進学熱はますます加速した。
そのおかげで従来なら短大、高専クラスに進学していた学生も4年制大学を目指すようになり、技術系専門学校の人気はますます落ちてしまった。

それなのに市場原理とは皮肉なもので、4大卒のニーズはさほど増えず、技能工との給与の逆転現象が日常化してしまった。
中国の「文人優位」は覆るだろうか
日本社会はもともと職人や技能工を尊敬する風土が比較的強いので、大卒より給与が高くてもさほど驚かない。1950年代後半ぐらいには大卒の就職先が非常に少なく、逆に中卒は「金の卵」と呼ばれて引っ張りだこだったという歴史がある(「大卒就職の戦後史」一橋大学社会学研究科博士課程、小椋宗一郎さんのサイトを参考にした)。
どこの国でも高度成長期共通の現象なのかもしれないが、これを機に中国でも職人や技能工に対する社会の評価が高くなって、たくさんの若い人が育ってくれれば、それはそれで社会にとっては良いことだと思う。そして、中国に進出した日系製造業にとっても、日本国内ではすでに難しくなりつつある熟練技能の継承といった意味で、長期的には大きなプラスになるのではないだろうか。
by officemei | 2006-06-15 00:07 | ■上海